メイヤーの超希少マウスピースがやってきた! TRU-FLEX/トゥルーフレックス・メタル 【メイヤー・マウスピースの歴史】
「MEYER TRU-FLEX David Gornston model/メイヤー・トゥルーフレックス・デヴィッドゴーンストン モデル」という、1937年頃のメタル・マウスピースです。
参考文献:Nicolas Trefeil氏のサイト
メイヤー・トウルーフレックス・メタル
メイヤーの最初期のモデル「TRU-FLEX/トゥルーフレックス」でも充分珍しいのですが、その中でもこの「Gornston model」はかなりのレア度です。
そこで今回はメイヤー・マウスピースの歴史も含め、ご紹介したいと思います。
MEYER/メイヤー・マウスピースはジャズ・アルトの王道
メイヤーのマウスピースではジャズやポップスでサックスを演奏する方々にとってもっとも見慣れたマウスピースといえば、テナー・サックスの「オットー・リンク/OTTO LINK」とアルト・サックスの「メイヤー/MEYER」でしょう。
アルトサックスのマウスピース選びに目覚める「あるある」なパターンは、こんな感じです。…高校の吹奏楽部でサックスを始めて、最初はセルマーのマウスピース、CS80やS90を使います。
そのうちだんだんとTVコマーシャルなんかで使われている曲や歌謡曲、そしてJ-popでサックスの入った曲に興味を持ち始め、そんな曲をコピーしていくうちに「セルマーのマウスピースだとフレーズのコピーは出来ても、なんか音色が違うなぁ…」なんて事を思いはじめます。
ある時、楽器屋さんや部活の先輩に「ジャズやPOPSのサックスやるならアルトのマウスピースはメイヤーに換えたがよいよ」などと言われ「マウスピースでそんなに音が変わるの…?」とマウスピースに興味を持ちはじめます…。
そうやって「脱セルマー」「脱吹奏楽」の第一歩として出会うのが(アルトの場合)メイヤーのマウスピースなのです。
現在、メイヤーのマウスピースといえば、ラバータイプのモデルで「開き5MM」が圧倒的に多いです。かの大御所、渡辺貞夫さんを始め数々のアルト・プレイヤーがこのメイヤーで名演を残しています。ジャズの王道を目指すならメイヤーの5Mを1本持っていれば間違いない、と言っても過言ではありません。
それ程ポピュラーなメイヤーですが、このメイヤーも「ビンテージ」と呼ばれるものが存在します。
誰もが欲しがるメイヤー”ニューヨーク・メイヤー”
メイヤーは現在、10,000円以下でどこでも手に入りますね。
そんなメイヤーですが、ネットオークションなどを見ていると、たまに50,000円とか100,000円とかするかなり高価な、しかも古いメイヤーを見かける事があると思います。
見た目は現行のメイヤーと変わらない(しかも古い…)のになぜこんなに高いの…??
こういったメイヤーのほとんどが「NYメイヤー/ニューヨーク・メイヤー」と呼ばれるビンテージのメイヤーなんです。
メイヤーの歴史
なぜビンテージが高いのか…??それを知るには、まずメイヤー・マウスピースの歴史を知る必要があります。
メイヤー(MEYER)は最初からマウスピース製造会社として、フランク・メイヤーさんとエドワード・G・メイヤーさんのメイヤー兄弟によって設立されました。
これが1916年の事です。
ちなみに、1920年には、テナーサックス・マウスピースの代名詞、「オットー・リンク」さんとフランク・メイヤーさん2人で楽器屋さん(楽器販売と修理)を始めています。
第一号モデル ”TRU-FLEX”モデル
1936年にはメイヤー・マウスピースの第一号モデルが製造されます。
そして翌年1937年にメイヤー第一号モデル「トゥルー・フレックス」が発売されました。
発売当初の「トゥルー・フレックス」はメタル・マウスピースのみでした。このモデルはその後10年程製造され続ける人気モデルとなります。
今では「アルト・ラバーの代名詞」となっているメイヤーですが、意外な事に、最初のメイヤーはメタル・マウスピースなんです。
その長い期間に形状にも改良が加えられ、また素材もエボナイトやクリヤー・プラスチックのものなども製造されました。
エボナイト製メイヤーの始祖 ”MEYER BROS”モデル
<↑”メイヤー・ブロス”の刻印。これが入っているマウスピースはメイヤー・ブロス期の個体です。>
「トゥルー・フレックス」がはじめて世に出てから約10年後の1948年、次のモデル「MEYER BROS(メイヤー・ブロス)」が発売されます。
「トゥルー・フレックス」によって蓄積された技術を活かし、シンプルな形状と独自のエボナイト素材でメイヤー史上最も売れたモデルとなりました。
これ以降、現在までのメイヤーの形状・音のキャラクターはこの「メイヤー・ブロス・ニューヨークモデル」によって確立したと言っても過言ではありません。
このモデルは今でも「メイヤー・ブロス・ニューヨーク・モデル」と呼ばれ、歴代メイヤーモデルの頂点にあたるモデルと言うマニアも多いです。
現在では手に入らない独自配合のエボナイト素材で成形され、腕の良い職人さんがハンドメイドによって削り出している為に「この当時モデルにしか出せない」豊かでダーク、そして太い音を持っています。
開きは「スモール・ミディアム・ラージ」の3タイプのチャンバーで用意されました。
ビンテージ・メイヤーの代名詞 ”NewYork USA”モデル
1960年には「ニューヨーク・USAモデル・TRANSITIONAL」そして「ニューヨーク・USAモデル」
1970年には「ニューヨーク・USA後期モデル」が製造・販売されます。
これらは「メイヤー・ブロス」の改良版という作りですが、「メイヤー・ブロス」に比べ個性が薄まっていると言われます。
それでも現代のメイヤーよりも素材面で優れており、ビンテージ扱いとなっています。
現在、メイヤーのビンテージ・モデルといえば、ほとんどがこの時期の「ニューヨークUSAモデル」の事を指します。
そして1971年には「メイヤー・マウスピース」は経営がメイヤー兄弟からj.jバビットさんに移ります。
バビットさんの名前を聞いた事がある方も多いのではないでしょうか。バビットさんは「オットー・リンク」をほぼ同じ時期に傘下におさめます。
(”バビット社”創業者j.j.バビットさんは1919年にサックスとクラリネットのマウスピース製造を始め、C.G.conn社で修行を積んでいます。そしてアメリカのインディアナ州エルクハートに本社と工場を構えます。)
こうして「オットー・リンク」と「メイヤー」は「バビット社」のブランドとなるのです。
その後は途中、1995年にこの「ニューヨークUSAモデル」の復刻版モデルが発売されますが、(→当店でも以前この”復刻モデル”が入ってきました。過去記事『MEYER メイヤー のリミテッド・エディション ニューヨークモデル 6M アルトサックス用マウスピース 買取りさせて頂きました★』)大量生産に合わせ素材も変わり、現在のメイヤーとつながっていきます。
ビンテージ・メイヤー
つまり、ビンテージとして今でも人気のメイヤー・モデルは、メイヤーがバビットに合併され大量生産体制となってしまう前の、今では手に入らない素材で、しかも今ではなされていない職人技によって加工された時代のものなんですね。
そして冒頭で紹介したモデルは、上記の「トゥルー・フレックス」というモデルのシグネチャー・モデルという事になります。
MEYER TRU-FLEX David Gornston model
メイヤー・トゥルーフレックス・デヴィッドゴーンストン モデル
この歴代メイヤーの中で、今回買取りさせて頂いたのは、”1号モデル”の時代にあたる”トゥルーフレックス”です。
しかも…!!なかなかネット上にも情報がない、David Gornstonの刻印が入ったモデルなんです。
実際に吹いてみると、これがとても音が出しやすい!!しかもメイヤーのメタルは中途半端な存在などとバカにされる事も多いのですがこの時代のメタルは造りが違います。
とにかくコントロールしやすく、素材がラバーでなく真鍮のせいか、目いっぱい吹かなくても
適度に大きな音が維持できます。
ブロウしても崩れ過ぎず、とにかく吹きやすいです! オットーリンクもそうですが、なぜ昔のマウスピースの方がこんなに造りが良いのでしょう…??
(もちろん個体差はかなりありますが)
技術的には数倍、現在の方が高いし精度だって良いはずなのに…としみじみ思ってしまう程です。
まとめ
現代にはセオワニなど抜群にコントロール性が良いメタルはありますが、こういった現行メタルより適度に角の取れた、かすれた音も出せる感じはやはり時代性でしょう。
こういった個体に出会うと、本当に古いサックスならではの味を感じますね。
現行のマウスピースやサックスのいくつかも50年位の時が経てば、発売当時には気が付かなかったような魅力を醸し出すのでしょう。
80年経っても、まだ音楽を奏でる事が出来るマウスピースに貴方の想いも込めるという愉しみ…これこそ「中古サックス」ならではの魅力です。