セルマーの現行モデル「ジュビリー」モデルの違いとシリーズ2とシリーズ3の特徴
サックスの世界で頂点に立つブランドが「セルマー」です。
スーパー・バランスドアクションやmark6やmark7など…。
現在では日本のブランド「ヤマハ」「ヤナギサワ」と並んでいる感はありますが、やはり「育てるサックス」としてはいまだに突出したブランドだと思います。
サックスの世界で「ビンテージ」と呼ばれるものはほぼセルマーの過去モデルです。
この事からもサックス界でのセルマーがいかに大きい存在かがわかります。
(参照→なぜヴィンテージサックスが求められるのか? その理由と、代表されるモデル)
(参照→buescherサックス。無くなってしまった古いブランドではすまされない個性)
ビンテージ化する、ということは今では再現できない音を持っているということです。
生産後60年、70年、80年と経ってその時代にしか造れなかったサックスと認められている訳ですからセルマー・サックスの信頼性は相当なものです。
<突然ですが、ここで当店の在庫情報です>——–
現在販売しているセルマーの中古サックスは以下のショップでご確認ください。
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ジュビリー前と現行のジュビリーの違いとは
ジュビリー前と現行のジュビリーの違い
そんなセルマーも、mark7の頃からヤマハ・ヤナギサワなどセルマーの模倣から発展したコストパフォーマンスに優れたサックス達との競争を余儀なくされ現在に至るので、ヤマハに代表されるような「吹きやすさ」をどんどん取り入れてきている感があります。
セルマーはシリーズ2のジュビリー前モデルまでは「新品はとにかく吹きにくくて操作しにくく、吹き込んでいくうちに徐々に乗りこなしていく」
というサックスでした。
それに対してヤマハは「最初から吹きやすくてピッチも正確」といった感じで、車でいえばオートマのようなサックスです。
それがセルマーもヤマハのように「最初から吹きやすい」サックスに変化して来ています。
これがはっきりと形に現れたのが「ジュビリー」モデルです。
スーパーアクション80
スーパーアクション80がマーク7に替わってセルマーの代表モデルとなった80年代からセルマーは正式に公表していませんが、積極的にマイナーチェンジを取り入れていきました。
スーパーアクション80は「通称シリーズ1/エイティ」を経て現在はバージョンが「シリーズ2」になり、2018年現在で実に37年も製造されている超ロングセラー機種です。
現在ではこのスーパーアクション80・リーズ2に加えて「シリーズ3」「リファレンス」と3タイプのラインナップになっています。
(ちなみに2018年7月現在 リファレンスはテナーが”リファレンス35”と”リファレンス54”の2タイプ、アルトは”リファレンス54”の1タイプ、ソプラノ・バリトンのリファレンスは存在しません。)
そしてそれぞれの現行機種に「ジュビリー・モデル」と「ジュビリー前モデル」が存在します。
それではジュビリーの前後でどう違うのか、私自身が吹いてみた結果その特徴をまとめてみました。
ジュビリー前モデルの特徴
スーパーアクション80の大きな特徴
- 重い管体ーこれは深く大きな音を出すのに向いている。
その反面演奏者も吹きこなすための技術力と息量を求められます。 - 管体の重さからくる音の丸みと音程の安定感。
シリーズ3の特徴
- この「スーパーアクション80」の特徴に音のアカ抜け感、輪郭をはっきりさせる、といった特徴を「つけ加えた」という印象でした。
ジュビリー・モデルの特徴
ジュビリー・モデルの最大の特徴は、やはり最初に書いたように「フラジオ域の安定感・出しやすさ」です。
これはジュビリー・モデルなら3機種それにも感じました。
ただし音色の傾向は以下のように感じました。
プラスチック的 | 中間 | 木管的 |
---|---|---|
シリーズ3 | リファレンス | シリーズ2 |
操作性 | ||
リファ | 3 | 2 |
これに対しジュビリーモデルはあきらかに管体自体を軽くして「吹きやすいのにアカヌケた音が出る」を目指したモデルです。
シリーズ2を生産し続けながら水面下でいろいろ試してきた細かいパーツの軽量化の集大成として「ジュビリーデザイン」を施し採用している事からもあきらかです。
ジュビリーモデルについて
セレス・アクソス
アクソスは「セレス」という新たなブランド名を作って製造・販売している事からわかるように、シリーズ2やシリーズ3とは別ラインという位置づけ。
セルマーの廉価モデルとしてはっきりと「コストダウン」を謳ったモデルで今のところアルトサックスのみの製造です。
音はというと、「ジュビリー前のシリーズ2」といった印象。
ジュビリーモデルのシリーズ2
シリーズ2 ジュビリーモデルの特徴は
- 最初から吹きやすい
- シリーズ3よりも音が丸い・アクソスよりはずっと華やか
です。
ジュビリーモデルのシリーズ3
シリーズ3の凄い所は、とにかくフラジオ域も正式な音域になっていると感じる点です。
たとえば昔のサックス~コーンなんかを吹くと、各音の音程・ピッチは外れていないんですが「ピッチの自由さ」にある意味てこずります。
これはどういう事かというと現在の楽器のように高い精度で設計されていないので、ちょっと口がゆるんだり耳に意識がいっていなかったりするだけですぐにピッチが下がる、ということです。
ただ吹いていると完全に「アカぬけない」音しか出ません。
これは一応各音の音程は合っているのに、ピッチが上がり気味だったり下がり気味だったりするので素人っぽく聞こえるのです。
コーンを吹いた後にたとえばヤマハの初級モデルなどを吹いてみてください。
すごくアカ抜けて聞こえると思います。
これは設計精度が昔のサックスに比べ格段に高いのでただ息を入れるだけでもピッチが狂いにくいのです。
これは反面、音色に遊びをいれる余裕があまりないということにもなります。
この流れで、現代のサックスなどさきほどのヤマハ初級モデルなんかを吹いてこのジュビリー・シリーズ3を吹くとさきほどの体験を、今度はフラジオ域で感じることが出来ます。
つまりフラジオ域は、「実際には想定されていない音域を、ノドで作りながら出す」わけですから、音が出るようになっても相当耳で意識して聞いていないと、フレーズが素人臭く聞こえてしまいますよね。
これはコーンと同じ理由で微妙なピッチのコントロールが出来ていないから。
その点、セルマーのジュビリー・モデル、とくにシリーズ3は相当フラジオ域の演奏も想定して設計されていると感じます。
今の所、こういった事を感じるのはジュビリーのシリーズ3だけです。
ただし注意して欲しいのは、サックスの場合「正確でアカ抜けた音色が出るものが一番」な訳ではないということ。
たとえばjazzアルトサックスで有名なジャッキー・マクリーンなんかは「微妙なピッチの悪さ」が彼にしか出せない味となっていますね。
またデビット・サンボーンのフラジオ音なども「彼独特の音程感」が、あの絶妙な味に一役買っています。
ケニー・ギャレットなどは、あえて「正確ではないギリギリ微妙なピッチ」でフレーズを吹いていたり。
サックスはとくに歌声に近い楽器なので、正確に音が出るということは吹き手の「吹きやすさ」には確実につながりますが、必ずしも「一番よい音」になるとは限りません。
ジュビリーのリファレンス
- シリーズ3よりもさらに音のつながりがよい
- とくにフラジオ域の色気が出しやすい。それでいてピッチがあまり外れない
これはおそらく、「ムリヤリのどでだしている」のではなく、この音域を出せるよう管体自体がしっかりと設計されているお陰でしょう。
まとめ
もし個人的にリファレンスかシリーズ3か購入するとしたら、確実にこの「フラジオ・フレーズの音色」の好みだけが判断基準になると思います。
そしてポップス、R&B系なら断然リファレンス!
枯れた感じは完全に苦手ですが、現代の音楽ジャンルすべてに対応できる感じがします。
ただサックスをある程度吹いてきた人間からすると、ちょっと「吹きやすすぎる」感じ。
吹きやすすぎて何も困ることはないんですが、「スタジオワーク用」という感じですね。
よろしければあわせて下記もお読みください
(参照→なぜヴィンテージサックスが求められるのか? その理由と、代表されるモデル「セルマーマーク6」)
(参照→buescher(ビッシャー/ブッシャー)サックス。無くなってしまった古いブランドではすまされない個性)