デイヴ・ガーデラを製造したドイツのB&S社のサックス【主なB&S社モデル解説】
B&S社のサックス
皆さんはB&S社(ビー・アンド・エス)っていうメーカーをご存じでしょうか。
B&S社はサックスメーカーだったんですが、今はあまり聞かないですよね。
現在では金管楽器、特にチューバの有名なブランドとなっています。
サックス愛好家の中にはB&S社を聞いた事がない、という方も多いんじゃないでしょうか。
今回は、その「B&S社のサックス」が何本か入って来たのでこれを機会にB&S社のサックスについてご紹介したいと思います。
この記事を読めば、B&S社の大まかな歴史とオークションなどで見かける主なB&S社の機種についての知識を得る事が出来ます。
ドイツのメーカー、B&S
B&Sは正式名称を『Blechblas und Signal instrumenten』と言います。(ドイツ語表記です)
現在サックスを自社製造していませんが、もともとは旧東ドイツのサックス製造メーカーでした。
旧東ドイツ時代、「Weltklang/ヴェルトクランク」と並んで国営メーカーとして現代サックスと同じ「オフセット型」のサックスを製造しました。(1950年頃~)
「オフセット型」とは、トーンホールの並びを一直線上ではなく右手と左手に合わせて左右に振った並びになっているものです。
サックスのトーンホールの並びについて・オフセットとインライン
1950年位までは、サックスのトーンホールの並びは「インライン」と呼ばれる並び方でした。
これは管に全ての音のトーンホールを一直線上に並べたものです。
管に一直線にトーンホールが並んでる??当たり前じゃない?…と思われる方も多いと思います。
サックスのトーンホール(穴)は、管に一列に並んでいるように見えますよね。
でも良く見てください。
<↑現代のサックス(セルマー・スーパークション80シリーズ2)トーンホールの並びを、ちょうど真ん中から左右にずらしてあるのが分かります。”オフセット”>
これは、昔のサックスと比べると良く分かります。
<↑1920年代のサックス(C.G.コーン製)。トーンホールが一列に並んでいます。”インライン”>
そうなんです。
1950年以降のサックス、そして現代では世界中の全てのメーカーのサックスがトーンホールを左右にずらして作られています。
これを「オフセット」型といいます。
これに対して昔の、トーンホールが一列に並んでいる(技術しかなかった)サックスを「インライン」型といいます。
B&S社のサックスが「オフセット」型で統一してサックス製造を始めた当時、「Weltklang/ヴェルトクランク」は未だ「インライン」型のサックスを製造していたそうです。
この事から、当時のB&S社は「Weltklang/ヴェルトクランク」よりグレードが上のサックスを製造するメーカー、という位置付けだった事が分かります。
当店在庫サックスで見るB&S社の各モデル
B&S社『ブルーレーベル』
その後、B&S社は東西ドイツ統一などの時代背景と共にモデル開発・生産を続けます。
特に70年代~80年代に生産された通称「ブルーレーベル」と呼ばれるモデルが評判が良く、(中堅モデルにあたるグレードです。)B&S社のサックスの質の良さを世界に知らしめました。
ちょうどこの頃、日本のカワイ楽器がこのB&S社のサックスをOEM販売していました。
OEMとは、他社で製造した製品に自社の名前を付け販売する事です。
つまりB&S社のサックスに「KAWAI」のロゴを付けて国内販売していました。
(ちなみにカワイのOEMサックスは80年代以降、B&S社からgrassi/グラッシというイタリアメーカーのサックスに代わります。grassi製のカワイ・サックスは2005年位まで販売され、その後カワイはサックス市場から撤退しました。)
このOEM販売という形態は、以前紹介した「セルマーUSA」と同じですね。
(1920~30年代のセルマーUSA社は、buescherやC.G.ConnのサックスをOEM販売していました)
B&S社の「ブルーレーベル」は中堅クラスのモデルですが、未だに世界中に愛好家が存在します。
実はカワイがOEM販売していた時期が、ちょうどB&S社が『ブルーレーベル』を生産していた時期と重なっているんです。
なので、B&S社製のカワイ・サックスはそのまま『ブルーレーベル』と同じものです。
それでは、当店在庫のB&S社製のカワイ・サックスを参考に、『ブルーレーベル』の特徴を見てみましょう。
管がありえない程に厚く、明るい出音
『カワイ/B&Sサックス=ブルーレーベル』を見て真っ先に驚くのが「管の厚さ」です。
こんなに厚くて音鳴るのか??と思う程厚いです笑
さぞかし鳴らしにくい管体だろうな…と思って音を出すと、鳴らしにくいどころかかなり鳴らしやすい!笑
そしてとてもコントロールしやすく、大きな音も出ます。
逆に抵抗がなさ過ぎて、「深みがないかな…」と感じるくらいです。
良く言えば素直な鳴りで、悪く言えば音個性を作るには向かないという感じ。
吹き込む楽しさよりは、気軽にバリバリ陽気に吹くのに向いている個体です。やはり「中堅モデル」という印象です。
管が厚い為か、ピッチがブレにくく安定した音が出しやすいと感じました。
珍品!Codera/コーデラ
コデラ/コーデラはご覧の通り、かなりの意欲作です。
なんと下半分だけ「パッドレス機構」になっています!
まるで円盤のようなキィガードとフタ部で、斬新すぎます!
唯一かつ最大の弱点は「パッドレス部のゴムが劣化した場合、気軽に修理に出せない」点です。
しかしインパクトは絶大です。
個人的に過去見たサックスの中で、一番のインパクトです。
音的には、やはり太い響きが最大の特徴ですね。
series2000
残念ながら、現時点では当店に在庫がありませんが、デイヴ・ガーデラに似た外観のモデルです。
B&S社のオリジナル・モデルとしてはこのモデル以降、アジア圏製造サックスのOME販売へと移行していきます。
※上記誤りでした。訂正しお詫びいたします。series2000モデルの次にseries2001モデルが続き、これらはアジア製ではなくドイツ製です。
B&S社最高傑作 Dave Gardala/デイヴ・ガーデラ
『ブルー・レーベル』以上にB&Sサックスを有名にしたのが、「Dave Gardala/デイヴ・ガーデラ」です。
デイヴ・ガーデラはアメリカでマウスピース職人として既に有名だったデイヴ・ガーデラさんが、B&S社のサックスに監修を加え、自分のブランド名を冠して販売したサックスです。
「ニューヨーク・モデル」が一番有名ですね。
管体やトーンホールのフタ部にまで彫刻が施されていたり、当時はまだ珍しかったブラック・ニッケル・モデルがあったり、太く大きく伸びる音が個性的だったり…と現代の「キャノンボール」のような位置付けのサックスです。
テナーはブランフォード・マルサリス、アルトはエヴァリット・ハープと、テクニックと歌心を兼ね備えた2人が愛用している点からもこのモデルのレベルの高さを伺う事が出来ます。
Dave Gardalaのサックスは日本国内ではあまり見かける事がないので希少です。
当店在庫のデイヴ・ガーデラはアルトのシルバー・プレートです。
シリアル・ナンバーのデザインにB&S社オリジナル・モデルとの共通点が見られます。
ちなみに私も最初「デイヴ・ガーデラ」を通してB&S社を知りました。
B&S社最後のオリジナルMedusa/メデューサ
B&S社でのプロ・モデルとして最後のオリジナル機種がこの「メデューサ」です。
シリーズ2001モデル以降は台湾や中国のメーカーで生産したサックスにB&S社のロゴを付けて売る(OEM)ようになったB&S社ですが、本格的なプロ・モデルとして自社で製造した「メデューサ」は日本国内でも輸入・販売されていましたね。
2006年にB&S社がサックス市場から撤退するまでメデューサは販売されました。
ご覧の通りDave Gardalaニューヨーク・モデルを思い起こさせる、細部にわたる彫刻(…おそらく機械彫りですが)そして豪快な低音の鳴りなど、Dave Gardalaからの進化を感じさせます。さすが最後のB&S、という個性的なモデルです。
個人的にはガーデラより太く豪快な音が出ると感じました。
まとめ
以上、B&S社の機種についてでした。
国内ではなかなかお目にかかる事の少ないB&S社のサックスですが、アメリカ製サックスやフランス製サックスとは違う個性を求める方には良いサックスだと思います。
B&S社のサックスを見かけた時は、ぜひこの記事を参考にしてください。
※一部記載情報に誤りがあった為、削除致しました。
(具体的には2001モデル以降、B&Sにはアジア圏製のエントリー・モデルしか存在していないかのような誤解を招く文章)
同時期モデルをお持ちの方、不愉快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。訂正しお詫び致します。