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ヴィンテージサックスが、なぜ求められるのか?その理由と代表されるモデル「セルマーマーク6」

│ 2016年4月25日 │ カテゴリー: サックスのブランドシリーズ

ヴィンテージサックスに求められるのは音

目次

ヴィンテージサックスに求められるのは音

そもそもサックスという楽器は、まだまだハンドメイド工程の残る楽器です。

ボディを成型する際の板金から、キィのバランス・位置調整まで、職人さんの技術に大きく左右されます。
サックスのリペア(修理)で有名な「石森管楽器(東京)」さんなど、プロ御用達の販売店では、輸入したサックスを販売前にわざわざ再分解・再調整するほどです。

新品のサックスにはない吹き込まれた「音の調整」「音のヌケ」を求められます。

では、なぜ使い込まれた古いサックスに音を求めるのか?

音の”調整”

サックスは、リードを振動させ、管にたくさん開いた穴を塞ぐ事で音程を変える楽器です。

この穴(トーンホール)を塞ぐ部分に、革を使っている為、新品のサックスは革がなじむまで何度か調整が必要になります。
新品の状態から息を吹き込むと、革に水分が吸収されていきます。
水分が吸収される事で革の柔らかさが変化し、フタの締まり方もそれにつれ微妙に変化してしまうのです。

ゆっくりと1音1音吹いている分にはさほど支障がありませんが、早いパッセージやフレーズを吹いているとキィの沈み方が変わり、吹きづらかったり、1音だけピッチが変わってしまったり、最悪の場合には音がでない部分が出てきたりします。

これは、革を使っている為、どうしても起こる現象なので、たいていのしっかりした楽器店は新品を販売する際、1ヶ月程度の再調整サービスをつけています。

新品の楽器は息を吹き込む事で、どんなに優秀なリペアマンが調整した楽器でも1ヶ月程度で革が馴染んでくる事によってバランスが崩れてしまうからです。

音の”ヌケ”

サックスの特性として最大の魅力であると同時に、やっかいなのが「音のヌケ」です。

サックスは、電子楽器と違い、吹き込めば吹き込むほど音が変わっていく楽器です。
これは、演奏しない方にはなかなか伝わりにくい事だと思いますが、とにかく音の深みが変化するのです。

逆にいうと、自分の得意なフレーズばかり吹いていると、使わない音と使う事の音色の差ができてしまう、という事です。

例えば、いつも使う「ド」の音は垢抜けて艷やかなのに、さほど使わない「ファ」の音はこもった、ボーっとした音になる、という具合です。
これは音色の違いが出る、という事もありますが、「ピッチ」のクセが変わってしまう、という事も関係しています。

音の”ピッチ”

サックスでいう「ピッチ」とは、音程とは少し意味が違います。

音程とは「ド・レ・ミ・ファ~」の事で、サックスのようにボタンを押すことで出る音が決まっている楽器では、よほど楽器が壊れていない限り、「押したキィの音程が出ない」という事はありません。

ピッチとは、音程の中の1音をさらに細かく表現した言い回しで、例えば同じ「ド」の音でも低いドと高いドがあるのです。(オクターブの事ではありません)

例えば、2人以上の楽器で同じ「ド」を出した時、ピッチが合っていない楽器が混じっていると「ワウワウワウ~」と音が波打って聞こえます。人間の耳はそれほど正確ではないので、(絶対音感を持っている人は別ですが)1人で楽器を吹いているとこのピッチの狂いは気がつきません。
バンドなどで合わせてみてはじめて「うわっ、なんか気持ちわるい」となってしまいます。
一番わかり易い例がカラオケです。
曲の通りに歌っているのに、音は外れていないのになんかアカヌケて聞こえない…上手に聞こえない…という人は、たいていこの「ピッチ」が合っていない事が多いのです。

とにかく、サックスは、新品で高い楽器を買ったんだから、即いい音が出る…とはいかない楽器なのです。

気持よく吹ける楽器にするためにはじっくり、まんべんなく息を吹き込み、購入後1年位は曲を吹きたい気持ちを抑え、楽器を育てる位の気持ちで取り組まなければいけないのです。
(…が理想です)

ヴィンテージサックスの需要と代表的なサックス

こういった事情から、自然に皆が考えだすのが、「じゃ、誰かふきこんでくれた楽器を使った方がラクじゃん」という事です。

平たく言えば、ここにヴィンテージの需要が生まれたわけです。

「吹き込めば吹き込むほど音が変わる」というサックスの特徴が、「いい状態でバランス良く吹き込まれている」のが、ヴィンテージの大前提です。

そして、特にサックスのヴィンテージを指す時、たいていはある特定のモデルを指す事が多いんです。それがselmer MARK6(セルマー マークシックス)というモデルです。

ヴィンテージサックスの代名詞であるとは?

セルマーマーク6

セルマー マーク6は、1950年代より製造され始めたモデル。

サックスは1本1本「シリアル番号」が入れてあり、このシリアル番号によって製造年が分かります。

マーク6のシリアル番号55***(5万番台)~20****(20万番台)あたりの「アメリカ組み上げモデル」を「アメセル」と呼び(日本だけの呼び名です)、特に値段が高く、アルトでも2020年現在で70万~80万位、きちんと整備された個体で100万以上の値が付きます。

この時期のセルマーサックスはフランス製造・フランス組み上げモデルだけでなく(現在のセルマーは全てフランス組み上げです)、こうしてフランスで製造した「部品状態の」組み上げていないサックスを、アメリカの工場で組み上げた、というフランズ製造・アメリカ組み上げモデルと2種類あるのです。

この2種類のサックスのうち、「アメセル」つまりフランス製造・アメリカ組み上げのものは特にジャズ、ポップス向けの作りを目指したものと言われていて、この「アメリカン・セルマー」通称「アメセル」が実用性・音ヌケの良さ・音の色気のいい所取り、という事で最も人気がある訳です。

以降、セルマー含め他のブランドも「マーク6」の模倣から発展した物といっても過言ではありません。最近ではマーク6の前モデル「バランスド・アクション」も価格が上がってきています。

セルマーマーク6以外のヴィンテージサックス【BUESCHER】とは?

「ビンテージ・サックス」としてもてはやされている昔のセルマー以外にも、ビンテージ・セルマーと同時期に活躍したサックスは存在します。

例えば1950年以前の、まだセルマーがサックスのスタンダードブランドという地位を確立する前(ちょうどスィング・ジャズ全盛の頃ですね)には、「C.G.Conn(コーン)」や「Buescher(ブッシャーまたはビシャー/日本表記いろいろ有り)」そして「KING(キング・1980年位まで生産が続いていました)」などです。

クラシック・サックス界では「Buffet Crampon (ビュッフェ・クランポン/通称クランポン・1866年からサックス製造)」などが既に地位を確立していました。

この他にも「知る人ぞ知る」的ブランドはありますが、こういった「セルマーが地位を確立するまで」に活躍したブランドのサックスは、現在でも中古として入手可能です。
こういった「セルマー以外のオールド・サックス」の例として今回は「Buescher(ブッシャーまたはビシャー)についてご紹介します。
ビッシャーというブランド名は、創業者の名前からとったもので、ビッシャーはもともとコーン(C.G.Conn)の製造工場長だった人です。音はコーンよりもさらに丸い印象です。
コーンにそっくりな構造ですが、コーンより彫刻が凝っていて、状態の良い個体が少ないようです。
当時はコーンに優るとも劣らないブランドだったようで、デュークエリントン楽団が、このビッシャーのサックスでサックスパートを揃えていた、という話は有名です。

当店にもビッシャーの「true toneシリーズ4」が在庫としてありますが、構造上、分解・リペアが難しく、修理・メンテして下さる修理屋さんも限られます。

この楽器の面白い所は、アドルフサックスから現代のセルマー型サックスへの変遷の面影を見ることができる所ではないでしょうか。

アドルフサックスによって発明された当時のサックスは、クラシックの室内楽団を想定してあり、必然的に音も小さく、またクラシック的な響きがするものでした。

この「アドルフサックス」を母体に、ネックの角度を変え、口径を広げ、オクターブキィを2つから1つにする事で、(最初期のサックスはオクターブキィが2つでした!)ポピュラー~ジャズ演奏に耐えうるものに改良したのが、まさにこのビッシャーやコーンのサックスなのです。

特にビッシャーのサックスは、替え指キィがまだ工夫されていない形だったり、彫刻がとても手の混んだものだったり…とコーンよりも見た目でコレクター心をくすぐるものが多い気がします。

また、当時の「アドルフサックス」の音色・吹奏感を再現するには、このビッシャーに「シガード・ラッシャー」というマウスピースの組み合わせが一番近いそうです。

あわせてこちらもお読みください:buescher(ビッシャー/ブッシャー)サックス。無くなってしまった古いブランドではすまされない個性

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